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東京高等裁判所 昭和59年(ネ)2084号 判決 1985年10月30日

昭和五九年(ネ)第二〇八四号事件控訴人

同年(ネ)第二一一二号事件被控訴人(第一審被告) 東京都

右代表者知事 鈴木俊一

右訴訟代理人弁護士 吉原歓吉

右指定代理人 小林紀蔵

<ほか三名>

第一審被告補助参加人 松田健一

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 山下卯吉

武藤正敏

福田恒二

昭和五九年(ネ)第二〇八四号事件被控訴人

同年(ネ)第二一一二号事件控訴人(第一審原告) 横山隆一

右訴訟代理人弁護士 小野寺利孝

荒木和男

志賀剛

百瀬和男

山下登司夫

二瓶和敏

友光健七

梓沢和幸

岩本洋一

上柳敏郎

川名照美

川人博

黒岩容子

小島延夫

斎藤義房

酒井幸

田岡浩之

高山俊吉

田中由美子

戸張順平

野村和造

長谷川壽一

畑江博司

服部大三

主文

原判決中第一審被告に対し、金一六万六八七一円及び金二〇万円に対する昭和四九年三月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を命じた部分を取り消す。

右取消しにかかる第一審原告の請求を棄却する。

第一審原告の控訴及び当審における拡張請求並びに第一審被告のその余の控訴を棄却する。

訴訟費用中、補助参加人らの参加によって生じた分の二分の一を第一審被告補助参加人らの負担とし、第一審原告と第一審被告との間に生じた分の二分の一を第一審被告の負担とし、その余は第一審原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(昭和五九年(ネ)第二〇八四号事件)

一  第一審被告

1  原判決中第一審被告敗訴部分を取り消す。

2  第一審原告の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。

二  第一審原告

本件控訴を棄却する。

(昭和五九年(ネ)第二一一二号事件)

一  第一審原告

1  原判決中第一審原告敗訴部分を取り消す。

2  第一審被告は、第一審原告に対し、原判決認容の金額のほか、更に三五三万三一二九円及び内金二八〇万円に対する昭和四九年三月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。(右金員中「二〇三万三一二九円及び内金一八〇万円に対する昭和四九年三月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員」を超える部分は、当審で拡張した請求である。)

3  第一審被告は、第一審原告に対し、東京都内において発行される朝日新聞、毎日新聞、読売新聞及び内外タイムズの各社第一社会面記事下広告欄に、縦二段、横一〇センチメートルの大きさで、原判決添付別紙(一)記載の内容の謝罪広告を一回掲載せよ。

4  訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。

5  仮執行宣言

二  第一審被告

本件控訴及び第一審原告の当審で拡張した請求を棄却する。

第二当事者の主張

原判決書一三枚目裏六行目中「二三年」を「(二三年)」に、同一九枚目裏三行目及び同八行目中「金三〇〇万円」を「金四〇〇万円」に、同九行目中「金五〇万円」を「金一〇〇万円」に、同一一行目中「金五〇万円」を「原審及び当審分として各金五〇万円合計一〇〇万円」に、同二〇枚目表三行目及び同六行目中「金四九六万八七一五円」を「金六四六万八七一五円」に、同七行目中「内金四四六万八七一五円」を「内金五四六万八七一五円」に改めるほか、原判決「第二当事者の主張」と同一であるから、ここにこれを引用する。

第三証拠関係《省略》

理由

一  当裁判所は、第一審原告の本訴請求は、第一審被告に対し金二七六万八七一五円及び内金二四六万八七一五円に対する昭和四九年三月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきであると判断する。その理由は、次につけ加えるほか原判決理由説示一ないし六のとおりであるから、ここにこれを引用する。

1  《証拠付加省略》

2  同五四枚目表二行目中「第一七号証」から同三行目中「三」までを「第一七号証の一及び三」に改め、同裏三行目中「二、」の下に「第一審原告本人尋問の結果(当審)により昭和四九年三月二五日当時の同原告の大腿部の写真であると認められる甲第四六号証の一ないし四」を、同七行目中「尋問の結果、(」の下に「原審及び当審。」を、同一一行目中「白河)は、」の下に「前記吉田材木店前付近から」を、同五五枚目表三行目中「原告は、」の下に「同署内に入ることに何らの拒否ないしは抵抗の姿勢を示すことなく、松田警部補及び西森巡査らに伴われて、」を加え、同九行目中「松田警部補」から同一〇行目中「入った。」までを削除し、同五六枚目裏二行目中「コップを」の下に「シャツで拭き」を加え、同五八枚目裏四行目中「力を加えたが」から同五行目中「捩じり上げたので」までを「強く力を加えたところ、右両警察官の第一審原告を取り押えようとする力と、これを振りほどこうとする第一審原告の力とが合わさって渡部巡査のとった第一審原告の左前腕が強く捩じり上げられる結果となり」に改め、同六〇枚目裏五行目中「尋問の結果」の下に「(原審及び当審)」を、同六行目中「難く、」の下に「また、《証拠省略》をもっては右認定を覆すことはできず」を、同一一行目中「特に、」の下に「下谷署管内で不審火事件が連続して発生していてその警戒の最中であったこと、」を加え、同六一枚目表六行目中「主張する」から同七行目中「れども」までを「主張するところ、第一審原告がかなり執ように質問を受けたであろうことは推認に難くないけれども、それが許された限度を超えたものであったことについては」に改め、同七行目中「尋問の結果」の下に「(原審及び当審)」を加え、同六三枚目表六行目中「果たして」を「右証拠をもって直ちに」に改め、同七行目中「田村医師の診断どおり、」を削り、同八行目中「生じていたか甚だ疑問と言うべく」を「生じていたと認定するのは困難であり、他に右事実を認めることができる的確な証拠もないから」に、同六四枚目裏四行目中「渡部巡査」から同六五枚目裏六行目中「相当である。」までを「松田警部補と渡部巡査が第一審原告の左右の腕を前記認定のとおり後手にとって上から強く力を加え、かつ渡部巡査の行為がその一因をなして第一審原告の左前腕が捩じり上げられた行為が社会通念上逮捕のために必要かつ相当な限度内の行為と認められるか否かについて検討するに、右1において認定した事実、特に、第一審原告の公務執行妨害行為が極軽微なものであったこと、同原告は凶器を所持しておらず、逮捕行為に対する抵抗の程度態様も単に警察官の手を振りほどこうとしてもがいたにすぎなかったこと及び右犯行、逮捕の現場は、多数の警察官がいる警察署内であり、しかも、同原告の抵抗に助力するものは全くいなかった等の状況に照らせば、同原告の両腕を後手にとってその左上腕骨に螺旋状骨折が生じ、あるいはその危険のある結果が生ずる程の力を加えて押えつけた行為については、右限度内にとどまるものと認めることはできないから、前記警察官の実力の行使は適法な職務行為と認めることはできない。

ところで、前記警察官らが骨折の結果を意図して右行為に及んだものと認めるに足る証拠はない。しかし、警察官が犯人を逮捕しようとして実力を行使する場合には、往往にして、犯人がこれを逃れようと抵抗する力と相まって、犯人の生命身体に対し重大な傷害を招来する危険が存するから、右のような実力を行使するにあたっては、犯人の抵抗の態様程度、犯行の態様、周囲の状況、犯人の身体の状態等に十分注意をはらい、犯罪の内容に比し重大な傷害を与えかねない事情の存する場合には、特別の事情のない限り、すべからく身体の損傷ないしはその危険が生ずるような力が加わることを加減し、更には実力行使を中止するかあるいは他の方法を用い、もって危険の発生を未然に防止すべき義務があるというべきところ、本件において、右に説示した事実並びに前記一で認定した第一審原告の飲酒量、職務質問から逃れるため駆け足で走った事実によれば、右逮捕行為に着手した当時第一審原告は、相当に酔いがまわっていたと推認され、松田警部補らはこれを認識していたと認められるから、第一審原告が後手にとられた両腕を振りほどくために通常以上の抵抗を試み、その結果傷害を負う危険の存することを予見しえたにもかかわらず、松田警部補らは、漫然と第一審原告を取り押えるため強く両腕に上から力を加え続け、本件傷害を生じさせたものであるから、松田警部補らは過失によって、違法に第一審原告の身体を傷害したものと認められる。」に改め、同六六枚目裏二行目中「尋問の結果」の下に「(原審及び当審)」を、同九行目中「おいては、」の下に「松田警部補及び」を加える。

3  同八六枚目表八行目及び一〇行目中「一二〇」を「一〇〇」に改め、同九行目中「全事情」の下に「殊に、第一審原告に後遺症が発生したことが認められないこと、第一審原告が氏名を明らかにすることを拒否する合理的な理由を見い出し難いにかかわらず、第一審原告は、かたくなにこれを拒絶し、その結果、松田警部補らの不審の念を増大させたこと」を加え、同裏一行目及び五行目中「二六万六八七一」を「三〇万」に改め、同二行目中「尋問の結果」の下に「(原審及び当審)及び右尋問の結果(当審)によって成立を認める甲第四七号証」を加え、同七行目及び九行目中「二九三万五五八六」を「二七六万八七一五」に改める。

そうすると、第一審原告の本訴請求は、第一審被告に対し金二七六万八七一五円及び内金二四六万八七一五円に対する不法行為の日である昭和四九年三月二二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容すべきであるが、その余は失当として棄却を免れない。

二  したがって、原判決中右認容の限度を超え第一審被告に対し金一六万六八七一円及び金二〇万円に対する昭和四九年三月二二日から支払済みまで年五分の割合による支払を命じた部分は不当として取消しを免れず、第一審被告の本件控訴は右の取消しを求める限度で理由があるが、その余の部分並びに第一審原告の本件控訴及び当審における拡張請求は理由がない。

三  よって、原判決中第一審被告に対し右の限度を超えて支払を命じた部分を取り消し、右取消しにかかる第一審原告の請求を棄却し、第一審原告の控訴及び当審における拡張請求並びに第一審被告のその余の控訴を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条ないし九四条を適用して、主文のように判決する。

(裁判長裁判官 舘忠彦 裁判官 新村正人 赤塚信雄)

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